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パズル遊びへの招待・オンライン版

1−3.魔方陣(方陣)


 魔方陣 (方陣) は縦、横、n個ずつのます目に数を入れて、縦、横、斜め(対角線)のn個の数の和が一定になるようにしたもので、これをn方陣と呼んでいる。二方陣は成り立たないので、三方陣が最小のものである。
 この魔方陣は古くから知られていた。伝えによると、紀元前2000年ころ、のちに夏王朝を興した禹(う)が洛水の治水工事を完成させたとき、背中に[1]のような模様のある亀が現れたというのである。この模様のひとつながりの丸を数字に直してみると、[2]のような三方陣になる。これは天意を表すものと考えられて、これから九星術という一種の占星術が生まれた。
 三方陣の覚え歌には、「憎し(294)と思うな七五三(753)、六一(61)坊主にハチ(8)が刺す」等といったものがある。子供のころに一度は聞いたことがあるのではないだろうか。

 現在ではパズルの対象でしかない魔方陣も、昔の人にはよほど不思議で神秘的に思われたに違いない。西洋でも、魔方陣はその神秘性のために、占星術に利用された。十六世紀前半、占星術者コルネリウス・アグリッパは、魔方陣と惑星とを結び付けて、三方陣を土星、四方陣を木星、五方陣を火星、六方陣を太陽、七方陣を金星、八方陣を水星、九方陣を月のそれぞれシンボルであるとした。
 それ以後、魔方陣と星座とを刻んだメダルがお守りとして用いられるようになった。[3]はその一例である。

 ドイツの画家、アルブレヒト・デューラーの銅版画「メレンコリア(ゆううつ)I」[4]の中に四方陣が描かれているのも、こうした占星術的な意味を持っていて、ゆううつを打ち消す木星のシンボルとして描かれたものと解釈される。なお、この方陣の下の段の中央に1514とあるのは、この銅版画の制作年度を表している。
 アラビアやインドでも魔方陣は魔除けとして用いられた。矢野道雄著『占星術師たちのインド』によれば、インドでは現在でも魔方陣を刻んだ指輪が大道占い師によって売られているという。また、江戸時代には、日本でも一種の熱病を治すまじないに魔方陣が使われたという。


[1]伝説の亀の背中の模様

[2]三方陣
492
357
816


[3]占星術のメダル


[4]A・デューラーの「メレンコリアI」(部分)

[4']デューラー「メレンコリアI」の魔方陣
163213
510118
96712
415141
[5]四方陣の点の打ち方
  
  
  
  
[6]完成した四方陣
115144
12679
810115
133216
[7]八方陣の点の打ち方
     
     
     
     
     
     
     
     

 こうしたこととは別に、魔方陣のパズルとしての解明も進んでいて、早くも1275年に中国の楊輝が著した 『続古摘奇算法 巻上』には、13種の魔方陣が載っているだけでなく、三方陣と四方陣の作り方も述べられている。
 西洋では、マニュエル・モスコブロスが14世紀(15世紀とする本もある)が魔方陣の一般的な作り方を書いている。四方陣の作り方を説明すると、まずます目の中に[5]のように点を打つ。次に一番上段の左から順にます目に番号をつけていき、その番号を点のあるます目にだけ書き込む。最後に、一番下の段の右から、今とは逆に番号をつけていき、空白の箇所にだけそれを記入すれば、[6]のような四方陣が完成する。八方陣の場合は、[7]のように点を打って、今と同じ要領でつくっていけばよく、同様にして十二方陣や十六方陣を作ることもできる。

 一辺のます目が奇数個の方陣、つまり奇方陣の作り方もモスコプロスは述べているが、ここではその改良型と見られる「バシェーの方法」を説明しよう。これは、フランスのバシェーが16世紀前半に著した『数の遊戯問題集』(Problemes Plaisants et Delectables)の中で述べているものである。
 まず、[8]のように、魔方陣からはみ出した形で、数を1、2、3、・・・・配置する。次にはみ出した部分を、空白の箇所に入れていく。その要領は、上方の数を下方のます目へ、下方は上方へ、右方は左方へ、左方は右方へ入れるようにすればよい。
 そうすると、[9]の五方陣ができあがる。同じやり方で、奇方陣ならどんな大きさのものでも作ることができる。


[8]五方陣の作り方
(バシェーの方法)

[9]完成した五方陣
11247203
41225816
17513219
101811422
23619215

 しかし、これらの方法では、いろいろとバラエティに富んだ魔方陣を作るというわけにはいかない。もっと自由に作品を作りたいというのであれば、万能方陣を利用する方法がある。[10]は四方陣の万能方陣である。縦、横、斜め(対角線)のどの一列を取っても、
A、B、C、D、a、b、c、dが1個ずつ含まれていることがわかるだろう。したがって、このA、B、C、D、a、b、c、dにどんな数を入れても四方陣が出来上がることになる。
 たとえば1994等の西暦年数を折り込んだ四方陣が作りたければ、

A+d=19
B+c= 9
C+a= 4

とでもして魔方陣を完成させればよい。一例を挙げれば

A= 7:B= 5:C= 4:D= 6
a= 0:b= 8:c= 4:d=12

とすれば、4から19までの連続数による四方陣ができて、その左上に19,9,4と数が並ぶ[11]。このほか工夫次第でおもしろい魔方陣ができるので、研究してみて頂きたい。

[10]万能四方陣
A+dB+cC+aD+b
D+aC+bB+dA+c
B+bA+aD+cC+d
C+cD+dA+bB+a
[11]西暦年数入り四方陣
199414
6121711
1371016
818155
 このコーナーは、高木茂男氏の著書「パズル遊びへの招待」(発行:PHP研究所・1994年)の内容に著者自身が加筆・修正を加えたものを、著者本人及び出版元の許諾により掲載しているものです。
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●第1部・歴史的なパズル●

  1. 迷路
  2. リンド・パピルスのパズル(からす算)
  3. 魔方陣
  4. 知恵の輪(チャイニーズリング)
  5. ヨセフスの問題とまま子立て
  6. 渡船問題(川渡りの問題)
  7. 油分け算
  8. 盗人隠し
  9. さっさ立て
  10. 薬師算
  11. 碁石拾い
  12. おしどりの遊びと入れ替え問題
  13. 一小刀問題
  14. ねずみ算とフィボナッチ数列
  15. 知恵の板
  16. 虫食い算
  17. 目付け字と数当てカード
  18. 橋渡り問題と一筆書き
  19. ソリテア
  20. ハノイの塔
  21. デュードニー
  22. サム・ロイド
  23. 移動板パズル
  24. 図形消滅パズル
  25. パラドックス
  26. 四色問題
  27. チェスのパズル
  28. にせ金の問題

●第2部・言葉と絵のパズル●

  1. 回文
  2. アナグラム
  3. 折り句
  4. 暗号
  5. ダブレット(変形パズル)
  6. クロスワードパズル
  7. サーチワード、クリスクロス
  8. スクラブル
  9. 漢字作りパズル
  10. 単語作りパズル
  11. 判じ物と判じ絵
  12. 絵暦
  13. 新しい単語パズルの作り方
  14. 電卓文字遊び
  15. いろいろな文字遊び
  16. 絵当てパズル
  17. かくし絵
  18. さかさ絵
  19. その他の絵のパズル

●第3部・パズルの展開●

  1. ポリオミノ
  2. 立体パズル
  3. ブラックボックス
  4. 裏表パズル
  5. ザイルトリック
  6. 絵合わせパズル
  7. 切り継ぎパズル
  8. お菓子の分配
  9. クロスワードパズルの数字版
  10. 電卓数字パズル
  11. 覆面算
  12. 年賀用パズル
  13. コインのパラドックス
  14. マスターマインド
  15. パソコン・パズル
  16. 速算ダイス
  17. インスタント・インサニティ
  18. グラスパズル
  19. 匹見木のパズル

●パズルの考え方・解き方●

  1. パズルの考え方・解き方 (1)
  2. パズルの考え方・解き方 (2)
  3. 参考文献

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