絵をさかさまにして見ると、また違った絵になるというのが「さかさ絵」である。われわれはふだん物をさかさまに見ることは極めてまれである。したがって、さかさまにしたらどう見えるかを想像することは困難である。
日本三景の一つである天の橋立ては、股から覗くのがよいと言われる。天の橋立でなくとも、股からさかさまに見ると、ふだんと違って見えることは経験された方も多いと思う。
こうしたことを利用して、読者に驚きを与える絵がさかさ絵である。なにはともあれ、実例を見て頂こう。ピーター・ニューエルは、今から100年前に『トプシーとタービー』という絵本を2冊著している。次はその本からの一例で、まずそのままの位置で下の説明を読み、次に本をさかさまにして、やはり下の説明を読み、絵を見るのである。
ピーター・ニューエル『トプシーとタービー』より
(はじめの位置→ 相手を小兵と侮って勝負を挑んだが |
さかさまの位置) 敢えなく組み敷かれてしまった!! |
この絵では、馬上で槍を構えた勇壮な姿が描かれているが、これをさかさまから見ると、地面に横になって小男に抑え付けられている哀れな姿に変わるという具合である。同じ本に文字が変わる例で、そのままの向きで「puzzle」(パズル)と読めるものが、さかさまにすると「The End」(終わり)に変わるものもある。
グスターブ・ファービークの 6コマ漫画より
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ピーター・ニューエルの絵本はそれぞれの絵が独立しているが、1903年から4年にかけて、グスターブ・ファービークがニューヨーク・ヘラルド紙の日曜版に載せた6コマ漫画は、もっと手の込んだものである。これは図を順に見ながら各こまにある説明を読んでいき、次に絵を逆さまにしてその続きを、さっきと逆の順序で見ていくのである。著者のファービークは、6こま漫画の執筆を頼まれたとき、12こま漫画が描きたくてこんな試みをしたと言われる。彼はこれを64回連載した。毎回ラプキンス嬢とマファルー老の2人が登場して、物語が展開していく。これを24回分をまとめた本が、1987年に坂根厳夫の訳、『少女ラプキンスとマファルー老人の冒険』の題名でTBS出版会から出ている。
1984年に出版されたアン・ジョナスの『光の旅 かげの旅』(日本語版は内海まお訳 評論社)は、これに類した物語絵本で、16シーンからなる場面を順に見て、そこで本をさかさまにして続きを見る。白黒であるがきれいな絵である。1982年のルース・ブラウンの『なんだ こりゃ?』(日本語版は舟崎克彦訳 佑学社)もおもしろい。 |