江戸時代から存在して、今でも見かけることのある看板に「十三や」というのがある。これは九四(櫛)屋のことである。同系のもので、よく知られているものに「十三里半」がある。焼き芋屋の看板によくあるもので、九里(栗)四里(より)うまい(上だ)という洒落であるが、こういうのが判じ物である。
西洋にも似たようなものがあって、数学史家のリーツマンの本にこんなエピソードが載っている。
プロイセンのフリードリッヒ三世(1740〜1786)が、フランスの文学者で思想家のヴォルテール(1694〜1778)をサンスーシー離宮に招いたが、その時の招待状にはこうあったという。
これは「p の下に à 、à 、6の下に100」となっているが、それをフランス語で言うと、「à souper à Sanssouci.(サンスーシーで晩餐を)」という発音になる。
これに対して、ボルテールの返事も簡単そのもので、
「 Ja 」
つまり英語のイエスで承知しましたということであるが、「大きなJ、小さなa」とフランス語で言うと、「J'ai grand appetit.(私は大いなる食欲を感じます。)」とほとんど同じ発音になるのである。なかなかしゃれた話である。
これに類した英語の例をいくつか挙げてみたので、考えてみて頂きたい。
問題 英文の判じ物
(1) (2) (3)
この判じ物が絵になると、判じ絵になる。その一つが浴衣などの模様に用いられる謎染めである。次の写真は菊五郎格子と呼ばれるもの。
菊五郎格子
「良き事聞く」
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菊五郎は歌舞伎役者の三代目尾上菊五郎のことであるが、この格子縞は「菊五郎(キ九五呂)」と読める。九と五は線の数である。また同じ菊五郎の「良き事聞く」模様も有名で、斧(よき)と琴(琴柱)と菊とを組み合わせている。
判じ絵の「般若心経」
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こうした遊びの目的以外に判じ絵は字の読めない人のためにも用いられた。絵暦はその代表的なものであるが、これについては次章で述べる。
次のものは仏教の基本聖典の一つである「般若心経」を絵にしたもので、判じ絵には違いないが、遊びより文句を覚える方便として作られたものと思う。喜多川歌麿の浮世絵の中に、描いた美人の名を判じ絵にしたものがあるが、これは寛政の改革で人名を出すことがうるさくなったための方策である。 |