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ワンダーランド
パズル遊びへの招待・オンライン版

1−15.知恵の板


 与えられた何枚かの断片を全部用いて、指定されたパターンを組み立てる問題が知恵の板である。知恵の板には膨大な種類があるので、ここでは代表的なものだけを紹介しよう。

・清少納言知恵の板
 『清少納言知恵の板』という小冊子がある。序文に寛保2(1742)年とあるから、今から250年前になる。ちょうど新書版を横にしたぐらいの大きさの本で、その中に42題の問題と解答を載せている。この知恵の板は7片からなっていて、[1]に示すように正方形を作るのに2つの組み方が可能である。もう一つの特色は「釘貫(くぎぬき)」という題で[2]のように真ん中が中空の正方形が出題されていることで、アメリカのパズル研究家マーチン・ガードナーが絶賛をしている。
 この知恵板はその後結構流行ったようで、中田高寛が安永(1772 〜1780)のころに『並物 一百十余品』(写本)を著しているほか、天保8(1836)年にも『江戸ちえかた』というパターン集(306題収録)が出ている。また刊年は不明だが、著者は木版一枚刷りのパターン集を持っている。

 
[1]清少納言知恵の板の構成

[2]釘貫とその組み方

・タングラム
 知恵の板の代表であるタングラム[3]は、中国で生まれた。中国語ではこれを七巧図と言う。それがいつごろからあったものかは、全くわかっていない。今から4,000年以上前にタンの発明したものだという話を時折り本で見かけるが、これはサム・ロイドがでっち上げたヨタ話で信ずるに足りない。
 現在確認されている中国での最も古い文献は、嘉慶18(1813)年の桑下客の序文のある『七巧図合璧』である。しかし、「合璧」というのは合本という意味であるから,それより前にも本があったことが推測される。
 いずれにしても、この本以降タングラムが流行して、パターン集が次々に刊行された。一方、この遊びはいち早くヨーロッパに伝えられて流行し、西洋で新しいパターンが続々と作られて、19世紀後半にはすっかり西洋に定着してしまった。今では西洋のものだと言ってもよいほどで、西洋で本もたくさん出ており、セットも絶えず売られている。
 [4]はパラドックス問題と呼ばれているものである。左右2つの図形は全く同じに見えるのに、なぜか右の方が1片多い。どちらも7片からなるのに、どうなっているのだろうか?


[3]タングラムの構成


[4]タングラムのパラドックス

・益智図
 中国で、1878年(光緒4年)にタングラムと別のタイプの知恵の板の本が出版された。それが『益智図』(全6巻)である。これは[5]のように、正方形を15片に分割したものである。益智図も日本やヨーロッパに伝えられたが、タングラムのようには流行らなかった。なおわが国でも、寛政年間(1789〜1800)に19片からなる知恵の板がかなり流行したという文献があり、同類のものに15片のものもあった。

・ラッキーパズル(クロスパズル)
 縦横の比が5:4の長方形を7片に分割した知恵の板は、わが国では「ラッキーパズル」の名で昭和4年(1935)頃から玩具として売られていて、今でも引き続き売られている。
 このパズルが古くからあったことは、プロフェッサー・ホフマン著の 『新旧パズル』(Puzzles Old and New) (1893)にクロス(十字架)パズルとして載っていることから見ても明らかである。これは当初7片で十字形を作る問題だったための名称で、それが種々のパターンが作られて、クロスという言葉が名前にだけ残ったというわけである。[6]にその構成と、十字架のパターンを示す。

・十字架パズルとTパズル
 いままで紹介してきた知恵の板は、いずれも1組何枚かの板を用いて、さまざまのパターンを作るものであった。しかし、すべての知恵の板がそうではなく、1組の板で単一のパターンを作るものもある。
 中でも古典的なものが、[7]に示した十字架パズルである。ジェリー・スローカム、ジャック・ポタマンズ共著の本によれば、このパズルの現在見つかっている最も古い文献は、1857年に出版されたものだとのことである。なお、このパズルには、[8]のように1片少ない5片からなるものもあり、両者は並存していたようである。このパズルは、最近、パズランド匹見から5片のものが市販されている。
 この十字架パズルの改良版と考えられるのが、今日でもよく売られている[9]のTパズルである。Tパズルはわずか4片でTの形を作るもので、簡単のように見えるが、やってみるとけっこう手こずる。傑作の一つといってよい。スローカム、ボタマンズの本によれば、現在知られている最も古いものは、1903年に出ているとのことである。


[5]益智図の構成


[6]ラッキーパズルの構成と十字架

  
[7]6片十字架パズル

  
[8]5片十字架パズル

  
[9]Tパズル

 このコーナーは、高木茂男氏の著書「パズル遊びへの招待」(発行:PHP研究所・1994年)の内容に著者自身が加筆・修正を加えたものを、著者本人及び出版元の許諾により掲載しているものです。
 他サイトへの無断転載はご遠慮ください。

●第1部・歴史的なパズル●

  1. 迷路
  2. リンド・パピルスのパズル(からす算)
  3. 魔方陣
  4. 知恵の輪(チャイニーズリング)
  5. ヨセフスの問題とまま子立て
  6. 渡船問題(川渡りの問題)
  7. 油分け算
  8. 盗人隠し
  9. さっさ立て
  10. 薬師算
  11. 碁石拾い
  12. おしどりの遊びと入れ替え問題
  13. 一小刀問題
  14. ねずみ算とフィボナッチ数列
  15. 知恵の板
  16. 虫食い算
  17. 目付け字と数当てカード
  18. 橋渡り問題と一筆書き
  19. ソリテア
  20. ハノイの塔
  21. デュードニー
  22. サム・ロイド
  23. 移動板パズル
  24. 図形消滅パズル
  25. パラドックス
  26. 四色問題
  27. チェスのパズル
  28. にせ金の問題

●第2部・言葉と絵のパズル●

  1. 回文
  2. アナグラム
  3. 折り句
  4. 暗号
  5. ダブレット(変形パズル)
  6. クロスワードパズル
  7. サーチワード、クリスクロス
  8. スクラブル
  9. 漢字作りパズル
  10. 単語作りパズル
  11. 判じ物と判じ絵
  12. 絵暦
  13. 新しい単語パズルの作り方
  14. 電卓文字遊び
  15. いろいろな文字遊び
  16. 絵当てパズル
  17. かくし絵
  18. さかさ絵
  19. その他の絵のパズル

●第3部・パズルの展開●

  1. ポリオミノ
  2. 立体パズル
  3. ブラックボックス
  4. 裏表パズル
  5. ザイルトリック
  6. 絵合わせパズル
  7. 切り継ぎパズル
  8. お菓子の分配
  9. クロスワードパズルの数字版
  10. 電卓数字パズル
  11. 覆面算
  12. 年賀用パズル
  13. コインのパラドックス
  14. マスターマインド
  15. パソコン・パズル
  16. 速算ダイス
  17. インスタント・インサニティ
  18. グラスパズル
  19. 匹見木のパズル

●パズルの考え方・解き方●

  1. パズルの考え方・解き方 (1)
  2. パズルの考え方・解き方 (2)
  3. 参考文献

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